2024年4月15日8:00
MMD研究所では、モバイル専門の調査機関として通信・端末・決済を中心としたあらゆるテーマで調査を実施、データを公開している。その中でも、通信キャリアをはじめとした各社の共通ポイント経済圏ユーザーの利用動向を調査した「経済圏のサービス利用に関する調査」は、定期的に行っている大型調査であり、毎回データへの問い合わせも多い。今回は、2024年1月に行った最新の調査データから見える、経済圏サービス市場の動向や、ユーザーのポイント活用状況について紹介する。
MMD研究所 吉田詩織
経済圏とは
MD 研究所では、ポイント経済圏(以下、経済圏)について次のように説明した上で聴取している。
「経済圏」とは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天など1つの会社が運営しているさまざまなサービス群(ECサイト、通信会社、決済サービス、金融サービス、エンタメ系サービスなど)を指す。これらの経済圏では、共通するポイント、アカウントを利用することで利便性が高く、またよりお得にサービスを利用することができる。
2022年4月から2023年7月までの調査では、「ドコモ経済圏」「au経済圏」「PayPay経済圏」「楽天経済圏」「イオン経済圏」の5つ、今回からは「Vポイント経済圏」も新たに追加した6つの経済圏について、ユーザーからの意識や経済圏をどのように利用しているのかについて聞いている。
各経済圏にはそれぞれ、「ドコモ経済圏」はdポイント、「au経済圏」はPontaポイント、「PayPay経済圏」はPayPayポイント、「楽天経済圏」は楽天ポイント、「イオン経済圏」はWAON POINT、「Vポイント経済圏」はVポイントとTポイントが存在する。今回の調査から新たに聴取しているVポイント経済圏には、三井住友フィナンシャルグループが提供するVポイントという共通ポイントと、Tポイントが2024年春に統合することが発表されている、今注目の新勢力となる。
※聴取した時期としては統合前になるため、「Vポイント経済圏」にはVポイントメイン利用者とTポイントメイン利用者が混在している。
経済圏を意識しているユーザーは58.0%
全国の18歳~69歳の男女2万5,000人に6サービス経済圏のいずれかを意識しているかを聞いたところ、「意識している」と回答した人は58.0%となった。
次に、いずれかの経済圏を「意識している」と回答した1万4,488人を対象に、最も意識している経済圏を聞いたところ、「楽天経済圏」が45.7%と最も多く、次いで「PayPay経済圏」が18.1%、「ドコモ経済圏」が16.3%となった(図1)。
図 1 最も意識しているポイント経済圏(n=14,488、単数)出典:MMD研究所
前回までと同じく、「楽天経済圏」は最も意識している人が多いことがわかった。楽天経済圏にはSPU(スーパーポイントアッププログラム)というポイント還元プログラムがあるが、2023年12月より各サービスのポイント還元率や上限が改定された。主に楽天モバイルユーザーの囲い込みを重視した内容で、上限も縮小されているため、今後意識される割合にも影響があると考えられる。
これに対して、「PayPay経済圏」は今回2位となったが、PayPayの実質的な親会社にあたるソフトバンクが2023年10月から通信料金の新プラン「ペイトク」の提供を開始し、契約者には通常よりも多くのポイントを還元するなど、グループ全体で市場の拡大を目指している。
「Vポイント経済圏」は4.1%と、他経済圏と比較して、今後の伸びが注目される。
各経済圏の満足度
6つの経済圏それぞれをメイン利用していると回答した人には、総合満足度も聴取した(図2)。
※メイン利用者とは、例えばドコモ経済圏メイン利用者は、経済圏を意識している人のうち、ドコモ経済圏を最も意識していて、メインで活用しているポイントはdポイントと回答した人のことを指している。
図 2 ポイント経済圏の総合満足度(単数)※ポイント経済圏別 出典:MMD研究所調べ
「満足」と「やや満足」を合わせて満足していると回答したのは、PayPay経済圏(n=500)が最も多く81.8%だった。意識している割合と同じく、満足度も前回から上昇している。楽天経済圏(n=500)ではこの割合が減少したこともあり、PayPay経済圏がリードする結果となった。
ドコモ経済圏(n=500)は71.4%、au経済圏(n=500)は69.6%、イオン経済圏(n=250)は78.4%、Vポイント経済圏(n=250)は70.0%となっている。
項目別の満足度から見るPayPay経済圏の強さ
調査では、「提供しているサービスの種類の豊富さ」「それぞれのサービスの充実度」「サービス同士の連携の良さ」「オンラインでの利用シーンの多さ」「リアル店舗での利用シーンの多さ」「利便性の高さ」「企業の信頼度」「サポート体制」「お得さ」「ポイントプログラム」の10項目それぞれの満足度も聴取している。
PayPay経済圏は特に「利便性の高さ(使いやすさ、便利さ)」「お得さ(ポイントの貯まりやすさも含む)」「利用シーンの多さ」といった項目で他経済圏よりも高い満足度を得ていた。決済サービスの中でも圧倒的なシェアで使える場所も多く、利用シーンが多ければその分ポイントも貯まりやすいため、総合的な満足度にもつながっていることがわかる。
楽天経済圏の今後
減少しているとはいえ、他経済圏と比較しても多くの人が最も意識していると回答している「楽天経済圏」だが、項目別の満足度はどうなっているのだろうか?
10項目の中でも満足度が高かったのは「お得さ(ポイントの貯まりやすさも含む)」や「オンラインでの利用シーンの多さ」だった。やはりSPUを軸にした楽天市場でのポイントの貯まりやすさは、プログラム内容改定後も魅力的だと捉えられている。
これに対して満足度が比較的低かったのは「サポート体制」や「企業の信頼度」だった。複雑化するポイント市場の中では、各サービスの還元率などがわかりやすく、安心してポイントを貯めることができるかどうかはユーザーにとって重要な項目だ。楽天経済圏はECなどオンラインサービスが中心となっているため、キャリアショップなどの実店舗を持つ他経済圏と比べてユーザーとオフラインで関わる機会が少ない分、細やかなサポート体制を強化し企業イメージを向上することができれば、今後も強さを維持していける。
経済圏ユーザーのポイ活実態
今回の調査ではさらに、経済圏の拡大には欠かせない”ポイ活”についても聴取している(図3)。ポイ活とはさまざまなサービスを利用してポイントを貯め、貯めたポイントを活用することでお得に生活をすることを指す。経済圏においては共通ポイントの存在が大きな軸となり、ユーザーの獲得につながっている。
図 3 ポイント経済圏を意識し始めたきっかけ(単数)※ポイント経済圏別、上位3位抜粋 出典:MMD研究所
各経済圏をメイン利用している人を対象に、ポイントを貯めたり使ったりしている場所やサービス、ポイントの投資や運用をしているかどうかを聞いた。
まず、各経済圏メイン利用者がその経済圏を意識し始めるきっかけについて聞いたところ、各経済圏の特徴がみられる結果となった。ドコモ経済圏(n=500)は「クレジットカード所有」、au経済圏(n=500)は「モバイル通信利用」、PayPay経済圏(n=500)は「QRコード決済利用」、楽天経済圏(n=500)は「ECサイト利用」、イオン経済圏(n=250)は「電子マネー利用」、Vポイント経済圏(n=250)は「クレジットカード所有」がそれぞれトップとなっている。ドコモ経済圏とau経済圏はどちらも通信キャリアとしてのイメージが強いが、トップはクレジットカードとモバイル通信に分かれている。
各経済圏メイン利用者がポイントを貯めている場所と使っている(ポイントでの支払いをしている)場所についても聞いている。
au経済圏について見てみると、貯めている場所はオンラインでは「通信料金」、実店舗では「コンビニエンスストア」がトップとなった。使っている場所はオンラインでは「ECサイト、アプリ」、実店舗では「コンビニエンスストア」となっている。
PayPay経済圏でも、貯めている場所と使っている場所は共に、「ECサイト、アプリ」や「コンビニエンスストア」「ドラッグストア」「スーパーマーケット」が多く、日常生活に欠かせない場面で利用されている。
新たなポイ活も
近年、KDDIは各種金融サービスと連携した「auマネ活プラン」提供を開始し、ドコモではマネックスグループとマネックス証券との資本業務提携をするなど、通信キャリア各社が主力のモバイル事業を支える金融事業へも注力している。また、2024年1月からは非課税保有期間などの見直しが図られた新NISA制度が始まり、世間の金融市場への注目度は年々高まっている。
ポイント市場においても、ポイ活で貯めたポイントを使った投資や運用が、従来の投資とは異なり、ハードルやリスクを減らした形で開始できる新たな金融商品として注目されている。
今回の調査では、ポイント投資(ポイントを使って株式や投資信託の金融商品を購入すること)とポイント運用(株式や投資信託を選び、ポイントを増減させること)の利用状況についても聴取した(図4)。
図4 メイン利用ポイントを使った投資や運用について(単数)※ポイント経済圏別 出典:MMD研究所
「ポイント投資とポイント運用のどちらもしている」と回答したのは、楽天経済圏メイン利用者が最も多い結果となった。楽天経済圏では、ポイント投資を行うとSPUに基づき楽天市場でのポイント還元率が上がるなど、気軽に始めることができることに加え、普段のポイントも貯めやすくなるというメリットもあるという点で始めやすいサービスとして支持されていると考えられる。
ポイ活への注目度は他の調査からも
各経済圏では、PayPayをはじめ、アプリを中心にしたサービス提供が行われているが、1つのアプリ内でさまざまなジャンルの機能を利用できる“スーパーアプリ”を目指した取り組みも進んでいる。
2023年6月に行った「スーパーアプリに関する調査」では、スーパーアプリで利用したい機能のトップは「ポイント管理・運用」、スーパーアプリを利用したい理由のトップは「ポイントを貯めやすい」となった。
また、2023年10月に行った「大手4キャリアユーザーのポイントプログラム利用に関する調査」では、スマートフォン所有者に対して、メイン利用しているキャリアのポイントサービス獲得・利用の重視度について聞き、7割以上が「重視している」と回答した。
ポイント市場への注目度は今後もますます上がっていく。ユーザーへのポイント還元・優遇策などが、各経済圏の拡大のカギとなっていくだろう。
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