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4、航空会社とFFPとエンベデッド・ファイナンス

2024年6月6日8:06

エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance、組込金融)とは、金融サービスを非金融サービスのプラットフォームにシームレスに統合することを意味する専門用語である。航空会社とエンベデッド・ファイナンスとの関係は、近年、FFPの発展に伴って益々密接になってきている。FFPシリーズの第4回目は、こうした航空会社とFFPとエンベデッド・ファイナンスについて紹介してみたい。

和田文明

【連載】進化を続ける世界のFFP
1、FFPの歴史
2、FFPのイノベーション
3、ユナイテッド航空のマイレージプラス・プレミアステータス・マッチ・チャレンジ
4、航空会社とFFPとエンベディドファイナンス
5、KMLオランダ航空のFFP

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レポート「ポイントカード・ロイヤリティマーケティング市場要覧」

ポイントカード・マーケティング市場要覧~Contents~

航空会社のエンベデッド・ファイナンスは、金融サービスを航空会社のエコシステムに直接統合し、旅行者にシームレスで便利なCX(カスタマーエキスパリエンス、顧客体験)を提供する成長トレンドである。従来の航空会社のクレジットカードやコ・ブランディドクレジットカードの発行にとどまらず、航空会社のFFPや予約プラットフォーム、モバイルアプリ、その他のタッチポイントに組み込まれた幅広い金融商品やサービスを網羅している。

世界の大手航空会社は、航空ビジネスと金融サービスとの相乗効果を発揮することに期待を込めて、コ・ブランディドのクレジットカードの発行やプリペイドカードの発行、バーチャルカード、多通貨ウォレット、旅行保険の販売、航空チケットのローン・割賦販売、BNPL(Buy Now Pay Later) の提供など、自社のカスタマーロイヤルティプログラムであるFFP (Frequent Flyers Program)を介し、FinTechのエンベデッド・ファイナンスに力を入れている。

エンベデッド・ファイナンスは、航空会社にとってCX(カスタマーエキスパリエンス、顧客体験)を向上させ、収益源を多様化し、競争力を強化するための強力なツールとなりうる。航空会社は、カスタマーロイヤルティプログラムであるFFPの会員を主な対象としいて、エンベデッド・ファイナンスを活用することで、顧客の購買意欲の向上や顧客の囲い込み、新たな収益源の創出などのメリットを得ることができ、航空会社とFinTechのエンベデッドファイナンスのプロバイダーとの提携は、今後ますます増えていくと考えられる。

近々の例では、アメリカの大手航空会社であるアメリカン航空は、2022年12月に、クレジットカード会社と提携して、航空券の購入時にクレジットカードの分割払いを利用できるようにし、2023年4月には、金融サービス会社のフィデリティファイナンシャルと提携し、航空券の分割払いサービスを開始している。デルタ航空は、2022年12月に、シティグループと提携し、航空券の後払いサービスを開始したほか、2023年2月には、ローン会社と提携して、航空券の購入時にローンを利用できるようにした。ユナイテッド航空は、2022年9月に、金融サービス会社であるT/Eカードのアメリカン・エキスプレスと提携し、航空券の分割払いサービスを開始している。シンガポール航空は、2023年2月に、顧客の旅行パターンやニーズを把握するために、データ分析を強化することを発表した。

航空会社のエンベデッド・ファイナンスの導入における課題には、金融サービスに関する各種法令規制の対象となるため、航空会社は規制を遵守する必要がある。例えば、顧客の金融情報を取り扱うため、データセキュリティ対策を強化する必要があり、エンベデッドファイナンスサービスを開発・運用するには、高度な情報技術力が求められる。よって、航空会社は、エンベデッド・ファイナンスで提携する金融機関やFinTech企業との戦略的パートナーシップを検討する必要がある。

航空会社のエンベデッド・ファイナンスの活用

(表18)は、航空会社におけるエンベデッド・ファイナンスの主な活用事例である。今後、航空会社のエンベデッド・ファイナンスはさらに進化し、航空会社のCX(カスタマーエキスパリエンス、顧客体験)、収益源、競争力に大きな影響を与えることが予想される。

(表18)航空会社の主なエンベデッド・ファイナンスの活用例

コ・ブランディドクレジットカード

航空会社は金融機関やカード会社などと提携し、顧客が日常の買い物でFFPの特典ポイントを獲得できるコ・ブランディドクレジットカードを発行

予約・購入プロセスへの融資統合

航空会社は航空券購入時に、BNPL(Buy Now Pay Later)やPOSファイナンスをシームレスに提供するために、BNPLプロバイダーと提携し、航空券やその他の旅費の費用を、より少額で管理しやすい支払いに分割する機能を顧客に提供

・ジェットブルー航空(アメリカ):BNPLのプロバイダーであるAffirmと提携し、航空券購入の分割払いオプションを提供

・アシアナ航空(韓国):BNPLの決済サービス“Asiana Pay”を提供、航空券購入だけでなく、ホテル予約や機内販売にも利用可能

後払い決済サービス“Atome”を導入し、韓国国内の顧客に航空券購入時の後払いオプションを提供

・フィリピン航空(フィリピン):BNPLでありPOSファイナンスの“FLY NOW, PAY LATER”を提供、頭金不要、最大36回払いまで選択可能

POSファイナンスの “TravelNow”を導入し、フィリピン国内の顧客に航空券購入時のローンオプションを提供

フライト中の決済

機内Wi-Fi接続や機内エンターテイメント、有料の機内食の提供などの機内サービスを、モバイルアプリのアプリ内課金や座席に設置されたタブレット端末でクレジットカード決済ができるようにする

空港ラウンジ

一部の航空会社では、旅行者が航空会社のアプリやウェブサイトから直接空港ラウンジへのアクセスサービスを購入できるエンベデッド・ファイナンス・ソリューションを提供

FFPとの連携

顧客のエンゲージメントを高めるため、FFPを航空券購入だけでなく、ホテル予約やレンタカーレンタルなど、さまざまなサービスに利用できるようにする

・キャセイパシフィック航空(香港):FFPのマイレージポイントを、機内アップグレードやラウンジアクセスなどに利用可能

・アメリカン航空(アメリカ):FFPの AAdvantageのポイントを、航空券購入だけでなく、ホテル予約やレンタカーレンタルなど、さまざまなサービスに利用可能

・ルフトハンザ航空(ドイツ):FFPのMiles & Moreのポイントを、ショッピングやダイニングなど、日常生活のさまざまなシーンで利用可能

・ジェットブルー航空(アメリカ):FFPポイントを、機内エンターテイメントや機内食などの機内サービスに利用できる

・全日空:FFPのマイレージポイントを、ANA SKYコインに交換し、ホテル予約やレンタカーレンタルなどに利用可能

・日本航空:FFPのJALマイレージバンクのマイルを、JALショッピングモールでの買い物に利用可能

旅行保険

航空会社は、旅行のキャンセル、医療上の緊急事態、手荷物の紛失などの予期せぬ出来事から旅行者を保護するための旅行保険、フライト保険、その他の保険オプションを航空会社のプラットフォーム内で直接提供。航空券購入時に、旅行保険を自動的に付帯することで、顧客の安心感を高めることができる

・アメリカン航空(アメリカ):航空券購入時に、旅行保険を自動的に付帯し、キャンセル費用や携行品損害などを補償

・ルフトハンザ航空(ドイツ):顧客のニーズに合わせたプランを選択可能な各種旅行保険をオンラインで販売

外国為替(両替)

航空会社は外国為替業者と提携し、顧客に外貨両替サービスを提供

外国向け貨物輸送におけるファイナンス

外国向け貨物輸送に関し、貿易金融や信用状(L/C、Letter of Credit)などの金融サービスを提供

・キャセイパシフィック航空(香港):貨物輸送業者向けに、輸出入業務に必要な貿易金融サービスを提供

・エールフランス航空(フランス):信用状(L/C、Letter of Credit)サービスを提供

・日本航空:貨物輸送業者向けに、貿易金融サービスを提供

プリペイドカード・電子マネー・電子財布

航空会社のFFPカードに、オープンループのオンラインプリペイドカード機能を搭載、IC電子マネー機能を搭載、モバイルアプリに電子財布機能を搭載

〇プリペイドカード

・全日空:Visaブランドのプリペイドカード機能を搭載

・日本航空:Mastercardブランドのプリペイドカード機能を搭載

〇電子財布

・全日空:電子財布機能ANA Payを搭載

・日本航空:電子財布機能JAL Payを搭載

〇IC電子マネー

・全日空:IC電子マネー楽天Edy機能を搭載

・日本航空:IC電子マネーWAON機能を搭載

バンキングサービス(BaaS)

預金機能や銀行決済機能などのバンキングサービス(銀行代理業務)を提供

・日本航空:バンキングサービスJAL NEO BANK (銀行代理業務)を提供

その他

 

・ジェットブルー航空(アメリカ):顧客がフライトの遅延やキャンセルに対して補償を受けられるサービス“Flight Refundable”を提供

・ハワイアン航空(アメリカ):顧客がフライトのアップグレードや機内預け荷物の追加購入などをアプリ内で行えるサービス“Hawaiian Miles Wallet”を提供

・フィリピン航空(フィリピン):航空券購入時に、マイクロファイナンスサービスを提供

・シンガポール航空(シンガポール):機内エンターテイメントシステム上で、ショッピングやゲームを提供

・イージージェット(イギリス): 顧客がフライト中に旅先でのレンタカーやホテルを予約できる

各種資料より作成

 

BaaS(Banking as a Service)のエンベデッド・ファイナンスにより、オンラインバンキングサービスのJAL NEO BANKや電子財布のJAL Payなどを手掛けるのは、住信SBIネット銀行の銀行代理業者である日本航空のFinTech会社であるJALペイメント・ポート(設立:2017年)である。

航空会社にとってエンベデッド・ファイナンスがもたらすメリット

エンベデッド・ファイナンスは、航空業界においてCX(カスタマーエキスパリエンス)の向上、収益源の多様化、競争力の強化に役立つツールとして注目されている。こうしたエンベデッド・ファイナンスのメリットには、(表19)のように大きく分けて「航空会社にとってのメリット」と「顧客にとってのメリット」がある。また、航空会社と提携した金融機関やカード会社などのエンベデッド・ファイナンス事業者は、航空会社の顧客基盤を活用することで、自社の顧客基盤を拡大することができる。

(表19)航空会社にとってエンベデッド・ファイナンスのメリット

●航空会社にとってのメリット

収益と付随的収入の増加

航空会社は、エンベデッド・ファイナンスの金融商品やサービスから手数料を得ることができ、単なる航空チケット販売のほか、収益源を多様化することができる

新たな収益源の創出

航空会社は、エンベデッド・ファイナンスを活用することで、新たな収益源を創出することができ、航空会社は、エンベデッド・ファイナンスサービスを提供する金融機関から手数料を得ることができる

顧客の購買意欲の向上

航空会社は、エンベデッド・ファイナンスを活用することで、比較的高価な商品である航空券の購入に際し、顧客に分割払いや後払いなどの柔軟な支払い方法を提供することができ、これにより、顧客の購買意欲を向上させることができる

顧客エンゲージメントとロイヤリティの向上

航空会社は、便利でパーソナライズされた金融ソリューションを提供することで、顧客との関係を強化し、リピートビジネスを促進することができる

顧客の囲い込み

航空会社のエンベデッド・ファイナンスは、顧客の囲い込みに効果的で、自社クレジットカードやコ・ブランディドクレジットカードの利用でマイレージを貯められるサービスを提供することで、顧客は航空会社との取引を継続する可能性が高くなり、顧客は、エンベデッド・ファイナンスを利用することで、航空会社に対してより大きなカスタマーロイヤルティ(ご愛顧)を抱くようになる

顧客の獲得・維持

航空会社は、エンベデッド・ファイナンスを利用することで、新たな顧客の獲得や既存顧客の利用促進につながる

顧客データとインサイトの強化

航空会社のエンベデッド・ファイナンスは、顧客の消費習慣や嗜好に関する貴重なデータを提供し、サービスやマーケティング戦略を調整するのに役立つ

データの収集・分析

航空会社のエンベデッド・ファイナンスは、データの収集・分析に役立ち、航空会社が航空券の購入にクレジットカードを利用した顧客のデータを収集することで、顧客の旅行パターンやニーズを把握することができる

●顧客にとってのメリット

顧客の利便性向上

顧客に航空券の購入時に、クレジットカードやローンなどの金融サービスをシームレスに提供することで、顧客の利便性を向上させることができる

シームレスな体験

顧客は、航空会社のプラットフォーム内で、旅行の経費を管理し、さまざまな金融サービスにアクセスすることができる

カスタマイズされた金融ソリューション

航空会社のエンベデッド・ファイナンスは、個々の旅行のニーズや好みに基づいてパーソナライズされた金融オプションをタイムリーに提供することができる

報酬の獲得

顧客は、キャッシュバック、トラベルポイント、保険割引などの航空会社のエンベデッド・ファイナンスの金融商品や金融サービスを通じて、FFPを通じて特典や特典を獲得することができる

各種資料より作成

航空会社のエンベデッド・ファイナンスは、航空会社が収益を生み出し、CX(カスタマー・エキスペリエンス、顧客体験)を向上させる新しい方法を模索しており、今後大きくに成長する事が見込まれている。エンベデッド・ファイナンス・ソリューションの導入に成功した航空会社は、競争が激化する航空業界で厳しい競争に勝ち抜くための有利な立場に立つことができる。

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